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コラム

人間の根源を描く狂言を、世界に伝える使命

能と狂言。二つの伝統芸能は、顔がそっくりなのに性格が全く違う「双子」に喩えられる。「能は貴族や武家社会を描いた悲劇。対して狂言は、庶民の日常生活を笑いを通して伝える喜劇です。生きる喜び、生を受けた感謝という、人間の根源を描いてきたからこそ、今まで約650年間も継承されてきたのでしょう」と小笠原さんが語るように、これだけ長い伝統を持つ喜劇は、世界でもほとんど類を見ない。

高校時代、狂言に夢中になり、世襲の世界では異色の弟子入りを認められた。幼少から理屈抜きに芸を覚える狂言師の子どもと違い、大人になって出発した彼は、台詞や動作の意味を、頭で考え、納得しながら習得。そこに込められた日本人の慎み深い「心」や「礼儀」を見いだし、やがてその探究心は「喜劇とは何か」の追求にまで及んだ。世界の喜劇に接し、イタリアのコンメディア・デッラルテ、そこから派生したフランスの現代喜劇などと、日本の伝統芸能ではタブーとされるコラボにも挑戦。それらの底流にある「人間根源の表現」という共通点に気づいた。

異文化交流の中で己を知る。ということを身をもって体験するうち、狂言を深めるためにも、日本の伝統芸能を多角的に世界に伝える橋渡しの役目を「使命」と感じるようになったという小笠原さん。昨年からはパリに家族が移り、自身も年3回は滞在、公演やワークショップを通じ、狂言や日本文化の機微を伝える。「フランス人は文化に対する感性が高くて、呑み込みの早い人が多い。ワークショップを続けたら、日本人よりもいい狂言師が誕生しそうです」。世界に触れることで再認識した狂言の精神。「伝統というバトンリレーの、アンカーになってはいけない」師匠・野村萬の言葉と使命感を胸に、今も国内外を駆け巡る。

文・写真 杉浦岳史
フランス雑誌 「L'une」 japon 2015年秋号 インタビュー記事より

狂言師 小笠原匡
Profile

小笠原匡
能楽師 狂言方 和泉流重要無形文化財総合指定保持者
初世野村萬(人間国宝)、故八世野村万蔵、九世野村万蔵に師事。現在『萬狂言』関西支部代表。能・狂言・文楽など6ジャンルが集う「風流」主宰。数々の公演に出演しながら、狂言教室や創作狂言、外国喜劇とのコラボレーションなど、狂言の「伝承」と「創造」に力を注ぐ。

フランス雑誌 「L'une」 japon 2015年秋号 表紙&掲載ページ

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