狂言師 小笠原匡

コラム

■ 国立能楽堂 【千駄ヶ谷だより vol.5】 インタビュー記事より

■「首引」のシテは初めてですか?

「首引」はアド(鎮西八郎為朝)や小アド(姫鬼)は演じたことがありますが、シテは初めてです。

■「首引」の見どころを教えてください。

うちにも6歳の息子がいて、一緒にウルトラマンを見たりするのですが、概して子どもというのは怪獣を倒すところに爽快感を覚えるものですよね。私も子どものころ大好きで見ていましたが、大人になってから見ても、世相風刺や普遍的な問題が扱われていて、違う視点から面白く感じます。「首引」もそれに似ているんです。鎮西八郎為朝という、武勇に優れた平安時代のスーパースターが鬼たちをやっつけるというお話なのです。お子さん方には人間がたった一人で大勢の鬼をやっつける爽快感やスケール感を感じてわくわくしてもらえたらいいなと思います。一方で大人の方には、厳格な鬼が自分の子供には盲目的に甘いという微笑ましさを楽しんでいただければと思います。ただ一生懸命演じるのではなく、親としての立場からも、そういうことを表現したいですね。

■今回は2回公演で、親鬼と姫鬼を1回ずつ演じられますね。

まったく逆の立場を1日に演じることはなかなかないので、貴重な経験です。親鬼はもちろん親の立場で演じますが、姫鬼の時には、反抗期に入りつつある小学校4年生の娘がいるので、普段自分が娘からされていることを誇張して、親に甘えている姫を演じたいと思っています(笑)。そういう意味で狂言はまさに生活の投影ですね。特別な家庭の話ではなくて、誰もが持っているテーマを扱っているからこそ、永く皆さんに愛されているのだろうと思います。

■子どもたちには狂言をどのように見て欲しいとお考えですか?

余計な先入観を持つことなく、自然体で触れて欲しいです。学校公演で小さなお子さんに狂言を見てもらう機会が多々あるのですが、ある小学校に行った時にこんなことがありました。高学年のお子さんだけに見せるというので、「低学年は何か行事があるんですか?」とお聞きしたところ、「低学年には狂言は難しいし、騒いだりするとご迷惑になるので高学年だけにしました」とおっしゃるんです。それはとても残念なことで、「かえって小さいお子さんの方がより素直に楽しんで鑑賞してもらえますから、そんなことおっしゃらないで低学年のお子さんにも見せてください」と言いました。つまり、大人の側からここをこう見せたいとか、この子たちはこうだろう、というのではなくて、子どもがありのまま感じたことが栄養源になると思うのです。たとえば、演者のいない、空の能舞台を見るだけでも非日常的でカルチャーショックを受けるでしょうし、ましてやライブの舞台を見れば何も感じないはずはありません。映像は作り手が見せたいものしか見ることができませんが、ライブは違います。この松は本物かな、とか、装束の色や柄など、どこを見てもいい、それがライブの良さです。それは大人の場合も同じです。なぜ能狂言は敷居が高いように感じるかというと、言葉の意味が分からないことがストレスで敬遠してしまうからだと思うんです。一方で、海外のオペラ歌手が来日したときには、外国語が分からないことは前提として受け入れ、言葉以外のリズムとか場の空気とか、別の要素を吸収して楽しんでいる。また、海外公演などをすると、例えばフランスなどでは、解説を付けて先入観を押しつけられるのは嫌がられます。今回の狂言は三曲とも分かりやすい演目ですし、素晴らしい演者がそろっているので、お子さんはもちろん大人の方も、言葉の意味はさておき、余計な解説や先入観を持たずにありのままを楽しんでいただきたいです。

■「親子のための」と銘打った狂言の会についてはどうお考えですか?

普段の公演ではお子さんが騒いで迷惑を掛けることを恐れて遠慮される方も多いのでしょうが、「親子のための狂言の会」では逆に、舞台を見た子どもの素直な反応を大人にお楽しみいただける滅多にないチャンスです。また、大人の方も等身大の発見があってお楽しみいただけるわけで、大人も子どもも、見る側の状況に応じて楽しめるところが、狂言という芸能の素晴らしさだと思います。

■ところで、お子さんは先生に似ているのでしょうか?

似ていますね。落ち着きがないところとか(笑)。それに、私の真似ばかりしています。教えたわけではないのに、私の舞台を見て「梟山伏」の「ホーホー」という梟の鳴き声や所作を真似したり。狂言は短いフレーズでインパクトのある擬音語や擬態語が多くて、すぐ真似できます。だから「猿楽」と言われていたのかも知れませんが、そういうところも狂言の魅力の一つですね。今回の公演でも、「腰祈」の山伏の呪文「ボーロン ボーロン」や、「首引」のひもを引き合う掛声「えーいさらさ えいさらさ」など、面白いフレーズが出てくるので注目してください。

■国立能楽堂でのシテでの出演は何回目ですか?

5回目になります。国立能楽堂の研修生出身ですので、国立能楽堂をホームグランドように思っており、その舞台に立つことは感慨深く、たくさん出演させていただけるのはとても嬉しいです。また、私は研修二期生なのですが、昨年には日本能楽会に入会させていただくこともでき、私たちが頑張ることで後輩の励みになれば良いと思います。

■最後に、初めて狂言を御覧になる皆さんへメッセージをお願いします。

敷居が高いと思わず、肩の力を抜いて楽しんでみていただきたいと思います。ライブですからどんな見方をしていただいても結構です。自然体でお楽しみください。必ず何か発見がある筈です!!

狂言「首引」とは…?

鎮西八郎為朝という男が寂しい野原を通りかかると、突然鬼に襲われます。鬼は娘の姫鬼に男を喰わせようとするので、男は勝負をして負けたら喰われようと提案します。そこで姫鬼は男と力比べをしますが、男は名だたる力持ち、全然勝てません。最後は鬼たち全員を相手に、首にひもを掛けて引き合う「首引き」をすることになり…。娘の様子に一喜一憂する子煩悩な親鬼に思わずクスリと笑ってしまう、ユーモラスな一曲です。

狂言「首引」
『狂言画』より狂言「首引」(国立能楽堂蔵)

国立能楽堂 【千駄ヶ谷だより vol.5】
7月狂言「首引」出演の小笠原匡先生にインタビュー!より抜粋

↑ページの先頭へ戻る