狂言師 小笠原由祠 公式サイト

野村万蔵家を母体とする 「萬狂言」 関西代表 小笠原由祠 (能楽師 和泉流狂言方)のホームページです。
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これからの活動

トップページ > これからの活動 > 『世界の仮面』研究  仮面の民族史

『世界の仮面』研究

「仮面の民族史」
●人間にとって「顔」とは何か。
  • 人間は顔なしにその人を思い浮かべる事は決して出来ない(手紙等言語的表現が媒体でも無意識に相手の顔を想像している)
  • 肖像彫刻、肖像画は顔だけに切り詰めて表現する。これを突き詰めたものが「面」である。
●彫刻は静止するもの、仮面は動くもの
  • 面は被って動く役者の肢体や動作を己の内に吸収してしまう。肢体による表現が面の表現となる。面は元来人体から肢体や頭を抜き去ってただ顔面だけを残したものである。しかるにその面は再び肢体を獲得する。人を表現する為にはただ顔面だけに切り詰める事が出来るが、顔面は自由に肢体を回復する力を持っている。
●農耕民族と仮面

狩猟民族に仮面は無い?顔に付けない呪具としての仮面たち

  • 狩猟民族は神像や仮面をつくらない。(エスキモーや西北インディアンはトーテムポールなど例外的に神像仮面をつくるが、これらの民族は定住性の強い採集狩猟民で、河川を毎年産卵の為上がってくる鮭・鱒などを一時的に大量捕り、乾燥や冷凍保存して食べる為定住性が高い)
  • 牧畜民も仮面をつくらない。東アジアのモンゴル族はラマ教により神像や仮面が持ち込まれているが新しい事で土着の文化とは無縁。西アジアやアフリカ遊牧民もつくらない。
●死生観の相違

狩猟民・牧畜民は動物を生け贄に捧げる。出産しても親は死なない。
農耕民・農作物は復活再生する。

●仮面と祖霊信仰

悪霊に対する防御装置、祭祀にて死・祖霊を象徴

  • 農耕民族は常に作物の豊穣の為に役立つ霊魂を尊崇する。霊魂のうちで尤も強力な物は人間の死霊で、祖霊が大きな役割を果たす。神像や仮面は死者、死霊祖霊の象徴である。漂白生活の狩猟民・遊牧民とは違い定住しているので運搬の必要ない大きな神像、仮面を安置格納出来る。
  • 死体は悪霊に付け狙われる。悪霊が死体に憑くと死者とかかわりのある者に大きな危難がおそいかかる。埋葬時に孔の部分を閉ざしたり、詰め物が施される。死仮面デスマスク
  • 化粧としての死・祖霊を象徴する「動的仮面」
  • 民俗学(泉靖一、木村重信、大林太良)狩猟民や牧畜民は面をつくらない。
    畜産農民 家畜を飼う農民 西アジア、ヨーロッパ
    非畜産農民 食用の家畜を持たない農民 日本、アメリカ
  • 考古学 農業が始まる遙か昔より世界各国の狩猟民の間で面は生まれた。
    三万年前(旧石器時代)以来、農民が出現する以前に、世界各地で狩猟民がお面を付け仮装(変装)していた。ヨーロッパ、アフリカ、アジア、南北アメリカ・ニューギニア・オーストライリアの洞窟・岸壁絵画に示されている。
    また内モンゴル遊牧民キタイ族にも死者の面がある。(ミュゼギメ所蔵)
  • 民俗学と考古学のずれ

六百万年前に出現以来、人は食料採集の暮らしで、植物に頼っていた。
その後他の猛獣が倒して食べ残した肉をあさるお余り頂戴で肉の美味しさを知り、狩りを始める。そして住みやすい所で狩猟採集の暮らしをしていた。
一万年前より栽培と家畜飼育で暮らす畜産農業が始まり、農民達は農耕に適した土地を確保していき、在来の狩猟民は住みにくい土地に追いやられ、また畜産農民の中から遊牧民が生まれ、家畜の群れと共に移動して暮らす生活が始まる。
十八世紀末ヨーロッパで産業革命が起き、人々は産業社会に生きる方向に向かい、食料採集・食料生産に直接関わらないで生きる人々が増え、地球上の適地は産業社会に生きる人々が占め、あるいは利用するようになり、世の発達に「おくれ、落ちこぼれ」た狩猟民達は、益々僻地に追いやられた。
豊かな大地で生活を謳歌していた先史時代の狩猟民と極限の地で辛うじて生き続ける現代の狩猟民の生活・文化とは大きく隔たってしまった。かつて縄文土器・土偶などの素晴らしい狩猟民文化を今の狩猟民は失ってしまった。先史時代の狩猟民はお面と仮装の祭・儀式・躍りを世界各地で盛んに行っていたが、十九~二十世紀には北太平洋沿岸の狩猟民にしかそれは残らなくなってしまった。

  • 呪術師の仮装と狩人の踊り
    先史時代狩猟民の面・仮装の目的
    1. 生きている人々と神霊との間を仲立ちして神霊と語り合うことが出来る呪術師の装い
      ラスコー洞窟に鳥の顔を持つ呪術が描かれている。動物の霊を尋ねる事により、死んでいく動物が将来新しい体を持って再び生まれてくること、来年の収穫を動物に約束させる。
    2. 狩人達の踊りの装い
      洞窟を女の膣に見立て、「女」を象徴する地下の祭の場で、男と動物の精霊とが再生の儀式を行い、動物姿の男達が歌い踊った。
      狩りの道具の槍は男性器、バイソンの傷ついて飛び出した腸は女の膣、槍を刺すことにより新しい生命が生まれる。
    3. 狩りの時のおとりの装い
      毛皮を装うと動物の体の臭いを放って人の臭いを消す効果がある。
●世界最古の仮面

フランス レ・トロワ・フレール洞窟(旧石器時代・二万年前)頭にトナカイの角付き被り物を着、体を鹿皮でおおった人物壁画 実例 イギリス・スターカー、ドイツ・ホーエンファイヒェルン(中石器時代・八千年前)アカシカの角付きの頭蓋骨を加工した被り物

●仮面の分類

顔に付けるマスク、頭上や頭下に付けるマスケット、建物の破風に飾るマスコイド

  • 狩猟仮面
    人間は初め狩人として立ち、獲物に近づく為に仮装した。そしてその後狩猟に関して行われる厳粛な呪術的宗教的舞踊乃至儀式的演戯が誕生する。それによって獲物が捕らえられると考えた。
    マンダンインディアン野牛舞踊、トーレス・ストレイト諸島呪像船上儀式、アフリカイヴォリー・コースト狩猟仮面
  • トーテム仮面
    動物、植物、樹木は世界創世に応ずる適合物創製である。人間の祖先。発生始源。
    人間とトーテムには呪術乃至宗教的結合がある。加護を願う。同一血属なので食用禁止。兵器や身体に絵を描く。動物・植物を尊重しその種を保存し、且つ進化に努力。(牧畜・植物栽培の起源)又はオーストラリアインチチウマ儀式ではトーテム動物の肉を食べ血を啜る事によりトーテムと結合すると考えた(進化して肉の代わりに麵、血の代わりに葡萄酒が聖餐式に用いられた)同じトーテムの者は性的関係を結んではならない。
    北アメリカ、オーストラリア、インドドラヴィタ族、アフリカバンツウ族、アフリカイヴォリー・コースト仮面
  • 妖魔仮面
    悪霊退散の仮面。
    コンゴ、ニューギニア、エスキモー、北アメリカ、セネカ模擬秘密結社の妖魔仮面
  • 医術仮面
    病魔仲間を思わせる仮装仮面を付け面白く躍り、病魔を病人の身から誘い出し、新しく用意した病魔の住家、即ち医師の身へ移す。医師は村外れに行き仮死状態になり妖魔を取除く。
    ボルネオ、アリゾナ、シベリアブリアート族、ブルマ疫病用医術仮面
  • 追悼仮面
    死人の精霊復帰の体現を示す
    ニュー・アイルランド、ビスマルク、ブル
  • 頭蓋骨仮面
    亡くなった呪術師や戦士長の精霊の力は保存される。
    ニューギニア、トーレス・ストレート諸島、ニュー・イングランド、ベンガル湾東部アンダマン諸島、メキシコ頭蓋骨仮面
  • 霊的仮面
    樹木に精霊を見出す、死人から善意の行為を求める、
    メキシコ、インド、ニュー・ブリテン象徴的霊的仮面
  • 戦争仮面
    単に敵を驚かすばかりでなく、楯や兜や仮面に超人間的な力を体現させる。
    ニュー・ブリテン、英領コロンビア軍事的舞踊仮面
  • 入會仮面
    秘密結社入会時に用いられる。成年式、男子のみ。儀式
    1. 断食、恐怖苦痛の抑制
    2. 割礼、抜歯
    3. 部族的婚姻規制の教授
    4. 部族伝承の秘伝的劇的舞踊
    北アメリカ、西アフリカ、ボリネシア、メラネシア、ニューギニア、トーレス・ストレート、インディアン、コンゴ
  • 雨乞仮面
    象徴的動作、対話、歌躍り インディアンズーニー族
  • 謝肉祭仮面
    悪い歴史。仮面の保護に隠れて人々を怖がらせ、近所の物を奪い、道路で乱暴狼藉をする。
    アルプス山麓、ヨーロッパ。邪神の仮面

 

 

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